梅毒は、近年感染報告数が増加傾向にある性病(性感染症)です。
2022年は年間1万例を超える報告がされており、注意したい性病の1つといえるでしょう。
梅毒は性行為だけでなく、オーラルセックスやキスでも感染する可能性があります。
放置すると、心臓や脳などにも影響を与え、場合によっては障害が残ることもあるためしっかりと治療することが大切です。
今回は、梅毒とはどのような性病か、またその症状や治療法、予防法などについて解説します。
梅毒とは
梅毒とは、梅毒トレポネーマという病原体によって引き起こされる感染症です。
性的接触によって感染する性病で、性行為だけでなくオーラルセックスやキスなどでも感染します。
出典:厚生労働省「性感染症報告数(2004年~2022年)」
厚生労働省がまとめる「性別にみた性感染症(STD) 報告数の年次推移」によると、梅毒の報告件数は増加傾向にあり、2013年には1,228件であったものが2022年には1万3,221件まで増えています。
感染報告の急増を受けて、厚生労働省も感染への注意を呼びかけています。
梅毒に感染した場合、全身にさまざまな症状があらわれます。治療せずに放置していると、脳や心臓に重大な合併症を引き起こすこともあるため注意が必要です。
また、妊娠中に梅毒に感染すると、胎児にも感染する可能性があります。
梅毒に感染した場合の症状
梅毒に感染すると、潜伏期間を経て次のような症状があらわれます。
- 性器や口の中に小豆から指先くらいの大きさのしこりや、痛みがあまりないただれができる
- 痛みやかゆみのない発疹が手のひらや足の裏にあらわれ、体中に広がる
このような症状は、一時的に消失することがあります。しかし、このような症状が消えても感染力が残っていることが特徴です。
治療をしないまま放置していると、数年から数十年の間に心臓や血管、脳など複数の臓器に病変が生じ、死にいたることもまれにあります。
梅毒の特徴として、病期によって症状の出現する場所や内容が異なるというものがあります。
感染後治療しなかった場合には、次のような経過をたどることが典型です。
病期 | 症状があらわれる時期 | 症状 |
I期硬性梅毒 | 感染後数週間 | 性器や口の中、肛門など梅毒トレポネーマが侵入した部位にしこりや潰瘍ができる。 最終部(肛門付近の部分)のリンパ節が腫れる。痛みを伴わないことが多く、治療をせずに自然に消失することがある。 |
II期硬性梅毒 | 感染後数か月 | 感染から3か月ほどで梅毒トレポネーマが血流によって全身に運ばれる。 発疹や赤色の発疹(バラ疹)が手のひらや足の裏、体幹部などにあらわれることがある。 肝臓や腎臓に症状が出る場合もある。 |
晩期硬性梅毒 | 感染後数年 | 数年が経過すると、ゴム腫と呼ばれるゴムのような腫瘤が皮膚や筋肉、骨などにあらわれる。 組織を破壊することがあるほか、運動麻痺、認知機能の低下など進行麻痺が起こることも。 精神障害や神経梅毒に発展する可能性もある。 |
近年では、抗菌薬による治療が普及したことで晩期顕性梅毒にまで進行することはほとんどありません。
このほか、脳やせき髄に感染が及ぶ「神経梅毒」は病期にかかわらず発生する可能性があります。
梅毒の潜伏期間について
梅毒は、感染後10日~3か月の潜伏期間があります。
潜伏期間にはほとんど症状が出ないことから、感染に気づかずに梅毒の感染者を増やしてしまうことがあるため注意が必要です。
梅毒に感染した可能性がある場合には、すぐに医療機関を受診して検査をうけるとともに、パートナーや性交渉のあった相手に感染の可能性を伝えて検査をすすめましょう。
梅毒の治療法
梅毒はしっかりと治療を行うことで完治する病気です。
ペニシリン系などの抗菌薬(抗生物質)が有効で、治療の際は内服薬または筋肉注射が選択されることが一般的です。早期に治療を行える場合には、1回の筋肉注射での完治が可能です。
ただし、梅毒の治療で使用する薬による副作用が起こる可能性があります。
筋肉注射では、24時間以内に頭痛や筋肉痛、発熱などの症状が生じることがあります。また、ペニシリンアレルギーがある方は、問診の際に医師に伝えておくとよいでしょう。
梅毒の治療期間
梅毒の治療にかかる期間はそれほど長くありません。
筋肉注射の場合、早期であれば1回の注射で完治します。梅毒が進行している場合には、1週ごとに計3回の筋肉注射が行われます。
抗菌薬を内服する場合、朝・昼・夜の1日3回薬を服用します。
服用期間はI期であれば2~4週間、II期では4~8週間の服用が目安です。
梅毒を予防する方法は?
梅毒の予防の基本は、梅毒に感染した方と性交渉をしないことです。
とはいえ、特に症状のない潜伏期間では感染している方自身が感染に気づいていないケースも少なくありません。
梅毒を予防するためには、感染の可能性を考えてコンドームを使用する必要があります。
ただし、コンドームが覆わない部分から感染する可能性があるため、コンドームで完全に予防することはできません。
梅毒の感染に不安がある方は、定期的に医療機関で検査を受けることで早期発見・早期治療につなげられます。
検査の結果梅毒に感染していた場合や、感染の疑いがある場合にはパートナーにも受診をすすめましょう。
また、コンドーム以外の予防法として、性感染症予防薬を使用する方法もあります。
性感染症予防薬(ドキシペップ:Doxy-PEP)
性感染症予防薬(ドキシペップ:Doxy-PEP)とは、性交渉後72時間以内に抗生物質のドキシサイクリン(ビブラマイシン)を服用することで、一部の性感染症を予防できる性病予防薬です。
特に菌量が増える前の性交渉後24時間に服用することが望ましいです。
ドキシペップでは、梅毒・淋病・クラミジアを予防でき、その予防効果は梅毒で87%、淋病で55%、クラミジアは83%と発表されています(※2022年7月国際エイズ学会発表の数値)。
オーラルセックスを含む性行為をする可能性がある方、複数のパートナーと性行為をする可能性がある方、過去に性病に感染した経験がある方、性的サービス店を利用する機会のある方は、性感染症予防薬の使用を検討してみましょう。
ただし、日光過敏症の方や、テトラサイクリン系のアレルギーがある方は服用できません。
また、下痢や吐き気、めまいなどの副作用が生じることもあります。使用されたい方はまずは医師に相談してみましょう。
梅毒は、オーラルセックスやアナルセックスでも感染する可能性がある性病です。症状が自然に消えたとしても、ひそかに進行している可能性があるため、症状が消えた場合でも念のために医療機関で検査を行うことをおすすめします。
梅毒の感染者が急増中!定期的な検査を
近年感染が急増している梅毒は、性交渉だけでなくオーラルセックスやキス、アナルセックスでも感染する可能性がある性病です。
進行すると臓器にも影響を与えてしまうため、早期発見・早期治療が肝要です。
梅毒は、早期の場合抗菌薬の筋肉注射1回で完治できます。早めに医療機関を受診し検査を受け、梅毒であった場合には適切な治療を受けましょう。